大学受験の日本史を考える

大学受験予備校で日本史講師をしている鈴木和裕です! 大学受験の日本史について思いつくままに書いていきます!

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日本史の話~入試問題との接点~

同志社大学で出題された良問(2012年 文・経済の大問1)について

 大学の入試問題にケチをつけている(笑)ばかりではなく,今回は,非常に面白い問題を見つけたので紹介します。2012年,同志社大学(2月6日文・経済)の〔Ⅰ〕の問題です(問題はこちら)。
 設問は「古代・中世の転換期における宮廷社会の変容に関する次の文A・B・Cを読んで…」というものですが,内容は中世の「家」の形成に関する本格的なリード文からの出題です。Aは摂関家,Bは王家(天皇家),Cは中下級官人の家についての文章です。今年の大河ドラマ『平清盛』を意識したのでしょうか,Twitterでも話題になっていた「王家」をリード文で使っています。
 リード文を読みこなすのが大変で,受験生には難しかったと思いますが,教科書の内容で多くの設問が解答できる良問です。教科書を写したような問題が多い中,日本史を正面から扱った本格的な問題です。
 この中から一部の設問をピックアップして,考えてみたいと思います。

(文章Aより)「…10世紀中葉の藤原師輔・b実頼兄弟以降は九条流・小野宮流といった故実を継承する流派も生まれるが,摂政・関白の任命と同時に宣旨によって補任される藤氏長者がこうした諸流を統括し,11世紀初頭までには朱器台盤・長者印とともに渡荘券文を受けて( イ )と呼ばれる膨大な所領を相伝・管理するようになる。また,大学別曹の勧学院や藤原道長が造立した( ウ )等の氏院・氏寺に属する所領も伝領した。」

【設問2】下線部bの関白実頼の孫で,実頼の養子となって小野宮流を継ぎ,深く政務・故実に通じて,栄華を誇る道長に対してもしばしば自己の主張を貫いた剛直な人物は誰か。その人物名を…漢字で記せ。
[解答-藤原実資]
[語群]
イ 1.八条院領 2.知行国 3.殿下渡領 4.公営田 [解答-3]
ウ 1.法勝寺  2.仁和寺  3.平等院  4.法成寺 [解答-4]

 まず,設問2ですが,解答は『小右記』の作者である藤原実資です。出題の仕方はまわりくどいのですが,出題者がリード文で持っている問題意識からすれば妥当だと思います。ただ,明確なヒントが,「実頼の養子」と「小野宮流を継ぎ」しかなく,『小右記』あるいは「漢文体日記の作者」などが無かったことで,少し難しい問題となっています。山川出版『詳説日本史』では「藤原氏の栄華」というタイトルで『小右記』が史料として掲載(p61)されており,その脚注で「この日記の筆者,小野宮右大臣藤原実資の自称」とあります。実教出版『日本史B』も同様の形式で掲載されています。
 次に空欄補充問題です。ウは標準的な問題といえるでしょう。イを考えてみましょう。実教出版『日本史B』では,本文に「摂関家でも,殿下渡領⑦を中心にして家領荘園群が形成された(p101)」とあり,脚注に「⑦藤原氏の氏長者に伝来される摂関家の根本所領。なお,氏長者には摂政・関白になった者がつくのが原則であった」と補足してあります。山川出版『詳説日本史』には明確な記述はありません。ただ,「権門」というのがわかりにくい教科書の記述を考えると,山川は実教の教科書以上に記述が物足りない感じがします。「殿下渡領」は,点の天皇家領(教科書の表現)である「八条院領」「長講堂領」と同様にもっと出題されてもいいのではないかと思います。ちなみに今年度の関西大学(2月3日実施)でも,以下のような形で同様の出題がありました。

 〔Ⅲ〕(一部,抜粋)(A)…この荘園整理令(延久の荘園整理令)は,もちろん藤原氏の氏の長者領,すなわち{(ア) 八条院 (イ) 長講堂 (ウ) 摂関家}領もその例外ではなかった。…」

 解答は(ウ)の「摂関家」ですが,同志社の出題と比べてどうでしょう?
 「殿下渡領」という語句が,山川出版『詳説日本史』など教科書によって扱われていないということで,語句の配慮をしたのでしょうか?しかし,関西大学の問題では,一方で教科書によって扱いの違う「鎖国令」を出題したり,岩波書店の「『世界』」という教科書に載っていない雑誌を出題したり,している訳ですから,この問題だけ突然,教科書に配慮するのも変な話です。そもそも,「摂関家領=殿下渡領」なのでしょうか。『国史大辞典』の「摂関家領」の項には「…ここでは通念に従って藤原氏の氏長者(通常は摂関が就く)が所有・管轄する殿下渡領や氏院氏寺領をも含めた広い意味で扱う。以下、これら構成要素に即しておのおのの性格と沿革を述べる。まず殿下渡領は、単に渡領ともいわれ、氏長者主催の行事を支える長者固有の所領であり…」とあります。やはり,正面から扱った同志社大の設問のほうがいいと思うのです。
 教科書によって対応の違う用語や教科書にない用語を扱うなら,教科書でごまかしているところに合わせるのではなく,日本史の理解につながるような内容を出題して欲しいと思います。いずれにせよ,関西大の問題も,(ア)と(イ)が天皇家(王家)領なので,仮に語句をを知らなくても,消去法で「殿下渡領」と,しっかり勉強した受験生なら答えられると思います。同志社大の問題も語句としては難しい(知らない)としても,選択肢の消去で合格するレベルの受験生は解けるでしょう。

 他にも,空欄(エ)の藤原忠実,(オ)の後宮や,【設問4】の議奏公卿,【設問12】蔵人所など問い方で難しくなっている設問もあります。しかし,教科書には,ほとんど書かれていないけれど,中世の社会を理解するのには重要度と思われる妥協しないリード文,それでいながら,大部分の設問は教科書レベルの語句で解答できるように配慮されていると思います。同志社を受ける受験生の学力を判断するには非常にいい問題でしょう。

 他大学の問題でも,教科書を写したような問題ではなく,こうした正面から大きなテーマを扱うような,あるいは近年の研究成果を扱うような問題が出題されることを期待します。もちろん,そういう問題ばかりでも,一方で困るのですが…。
 
 ただ,こういう問題を見ると,「受験生にどうやって理解させようか?」と考えて,授業の内容を考えるのが楽しくなりますね!

「鎖国令」の出題について

 今回は,2012年2月2日実施の関西大学の入試問題(問題はこちら)で,気になった設問があり,以前Twitterでつぶやいたのですが,僕の見解を整理しておきます。

〔Ⅲ〕次の(A)~(E)の各文の問1~問15について,(ア)~(ウ)の中から最も適当な語句を選び,その記号をマークしなさい。[一部,抜粋]

(D) 一 異国え奉書船の外、舟遣すの儀、堅く停止の事。
   一 奉書舟の外、日本人異国へ遣し申す間敷候。(下略)
   一 (11)異国え渡り住宅仕り之有る日本人来り候は、死罪に申し付くべく候。(下略)
   一 異国舟につミ来り候白糸、直段を立候て、残らず(12)五ケ所へ割符仕るべき事。

問10 この史料は寛永10年の鎖国令である。その説明として誤っているものはどれか,次の中から選びなさい。

 (ア) 1633年に発令された最初の鎖国令である。
 (イ) 全国の大名にあてて発令された。
 (ウ) 貿易船には朱印状のほかに老中の許可状が必要となった。

[以下の設問は略]

 現行の高校教科書の範囲で判断すれば,解答は(イ)であろうと考えられます。しかし,どうもすっきりしない問題です。
 まず,設問で「この史料は寛永10年の鎖国令である」としているのですが,現在の教科書の扱いをみると,山川出版『詳説日本史』では,「禁令」となっています。ただし,「寛永10年」に発令されたものについては史料は掲載されていません。次に実教出版『日本史B』では「鎖国令」となっています。こちらは「寛永10年の鎖国令」で史料も掲載されています。ただし,「禁令」や「鎖国令」の語句は年表や史料のタイトルのみで,本文中では使われていません。
 最近出版された杣田善雄氏『将軍権力の確立』の記述を見てみると,「これが,高等学校教科書では第1次鎖国令あるいは鎖国令寛永十年令などと称されてきたものであるが,実のところは「鎖国令」と呼ぶべきような公示された法令ではない。…長崎奉行として職務を遂行するうえでの要綱を下知したものである(p85)」とあります。ロナルド・トビ『「鎖国」という外交』など他のものを読んでも,特に寛永10(1633)年の史料が,「鎖国令」と呼べるような「法令」ではなかったというのは,通説になっていると言えそうです。その中で,この問題は「第1次鎖国令~第5次鎖国令」という古典的な理解に基づいて出題された問題といえます。
 次に選択肢を見てみましょう。
 (ア)の選択肢について。この選択肢の判断ポイントは,設問で「寛永10年の鎖国令である」と前置きしているので,「1633年」と「最初の」となります。そもそも,文章正誤問題で西暦年の判断をさせるのは悪問です。さらに「最初の」という判断も,古典的理解に基づいた「第一次鎖国令」というのを前提にしています。しかし,「鎖国令」という表現そのものを否定する見解がある以上,誤文とも取れないこともありません。
 (イ)の選択肢が誤文で,解答と考えられます。古典的理解から考えれば,「大名だけでなく,商人などの渡航も規制されているから」ということで,誤文と判断することになるでしょうか。しかし,「長崎奉行に出されたもの」という近年の通説にしたがっても,誤文と判断できます。
 (ウ)の選択肢は「老中の許可状」=奉書が必要となったということで,奉書船制度と考えられるので,教科書の内容からは正文とできるでしょう。ただ,山川『詳説日本史』の年表には「1631 奉書船制度はじまる」という記述があり,さらに前掲の杣田氏の著書では。「寛永8(1631)年,幕府は海外渡航を許可するにあたって将軍の発行する朱印状に加え,長崎奉行に宛てた老中奉書を出すことにした(p84)」とあります。とすると,(ウ)の選択肢は「…老中の許可状が必要となった。」となっているので,誤文ともいえます。
 以上から考えると,この問題は「(ア)(イ)(ウ)すべて誤りである」と言えないことはないのです。

 出題者が「鎖国令」の史料と呼称を使ったのは,高校や教科書のレベルに配慮したものだと思われますが,問題があります。教科書の記述と設問の立て方から「問題ミス」というと言いすぎかもしれません。しかし,「文章正誤問題」の作法として,「教科書に記述があるからいい」と言えるのでしょうか。意識の高い高校教員の中には,近年の研究成果も踏まえ,教科書の古典的な知識を修正しながら授業をしている人もいます。上記の設問の問題点は,先生や生徒がよく勉強しているが故に正誤の判断を誤る可能性があるということです。さらに今回の「鎖国令」については教科書によっても対応が違うので,史料問題としては,出題の仕方の工夫が必要でしょう。入試問題では,「教科書の内容」と単純に処理せず,出題してほしいものです。特に「文章正誤問題」は,語句選択や語句記述の問題とは違うので,出題者の配慮が求められるところです。

 以上から,この問題は,「ミス」ではないけれども,「不適切」と言わざるを得ないのです。設問文で「寛永10年の鎖国令」と設定している意味はあまりないと思います。模擬試験ならば出題しないでしょう(寛永10年の史料を使わないという意味ではない)。
 大学入試については,「努力した受験生が報われる問題」が理想だと考えています。受験生の学力をはかるための適切な良問を出題してほしいものです。

 
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