今回は第5・6問についてです。
 ※頻度・丸数字は山川出版社の『日本史B用語集』により,教科書11種類中の掲載数。

 【第5問】明治の特許制度の成立

 第6問も含めて,人物史がなくなってしまいました。テーマはなじみがありませんが,設問は基本的な内容です。センター試験ではよくあることなので,問題の見かけに惑わされないことが重要です。問3は受験生の苦手な綿糸・生糸についてで正答率は低いでしょうか。問4は西暦年で解こうとすると出てこなかった受験生は困ったのではないでしょうか。全体としてはやや難でしょうか。

問1.空所補充問題です。福沢諭吉からア西洋事情,ガラ紡からイ臥雲辰致です。このレベルの知識はあるでしょうか。アの西洋事情は頻度⑦,西国立志編(中村正直)は頻度⑥,イは臥雲辰致・豊田佐吉ともに頻度⑧でア・イともにやや低めでしょうか。福沢諭吉はもちろん頻度⑪です。

問2.明治期の制度・法律に関する問題です。①の太陽暦の文章が正文ですが,太陽暦の頻度は⑪です。②の日本銀行は頻度⑪で,大蔵卿の松方正義の建議で設立します。③の治安維持法(頻度⑪)は大正時代の末期に成立するので時期違い。④の造船奨励法は頻度⑧で,細かい知識に見えますが,「造船奨励法…海運業を」とあり,「造船」と「海運」で,いかにも誤文です。ちなみに,山川『詳説日本史』に脚注で「1896(明治29)年,政府は造船奨励法・航海奨励法を公布して,鉄鋼船の建造と外国航路への就航に奨励金を交付することにした(p277)」とあります。実教『日本史B』は航海奨励法のみ本文にあります。

問3.受験生が苦手とする綿と絹の問題です。aの富岡製糸場(頻度⑪)は基本用語です。フランスの器械を輸入し,群馬県に設立されるので明らかに誤文です。dの「綿糸生産高が輸入高を上回」るのは,日清戦争後の1897年です。日清戦争後,中国向けの綿糸輸出が伸びたことを想起すればよいでしょう。bcが正文です。aは一問一答的な知識で判断できるので,dの判断ができるかどうかでしょう。

問4.グラフと表の問題です。Yの選択肢は表を見れば誤文とわかります。知識は不要です。Xは「日英通商航海条約を調印したのが1894年,日清戦争の直前だと知っていれば…」というのはどうでしょうか。確かに「日清戦争直前・1894年」を知っていた受験生は簡単にできたでしょう。リード文をよく読んでください。「治外法権(領事裁判権)の撤廃にかかわる不平等条約改正の交渉過程で,(c)外国人の特許権取得も認められるようになった」とあり,選択肢では「日英通商航海条約に調印した翌年から,外国人の出願も加わり」とあります。日英通商航海条約によって「治外法権が撤廃された」ことを考えると,「外国人の出願も加わ」ったのは,日英通商航海条約の調印以前からだと推測できます。そこからXは誤文だと判断できます。また,リード文に「1899年の特許法の制定」とあって,グラフを見ると,1900年から一気に特許登録件数が上昇しています。根拠にはなりませんが,ヒントにはなるでしょう。ということで,Xを誤文と判断するのに必要な知識は西暦年ではなく,リード文とグラフの読み込みと,「日英通商航海条約で治外法権が撤廃された」という知識です。センター試験は西暦年だけに頼って解答させるわけではありません。


【第6問】20世紀の日本における軍事と政治・経済・社会とのかかわり

 大正時代以降を中心とする大問です。現代史の学習がすすんでいるかどうかが,高得点を取るためには重要ですが,近代と現代をまたぐ,正誤の判断が近年は多くなってきています(第1問のテーマ史は別)。今年度も問3,問4,問7と3問ありました。現代史の攻略は,まず,明治時代からアジア太平洋戦争までの近代史をしっかり理解することでしょう。

問1.空欄アは二個師団増設問題から第2次西園寺内閣がわかればいいので,標準的な政治史です。空欄イの帝国在郷軍人会は頻度④で,センターとしては細かい用語といえます。ちなみに在郷軍人会でも頻度⑤です。ただ,ダミーの大政翼賛会が頻度⑩で,明らかに時期が違うことから消去法で解けたでしょう。

問2.下線部(a)に軍部大臣現役武官制(頻度⑩)の語句があるので判断はできたでしょう。成立したのはXの第2次山県内閣で,改正されたのは第1次山本内閣ですが,Yは原内閣の説明なので誤りです。標準的な政治史の問題ですが,ちなみに第2次山県有朋内閣は頻度⑨です。掲載されていない教科書があるということです。

問3.③のパリ不戦条約は,2009年にも年代順配列で出題されていましたが,正答率は低く,知識のない受験生が多かったようです。しかし,頻度⑩のほとんどの教科書に掲載されている重要語句です。①のア語文の「国際連合」はベタですね(もちろん「連盟」)。見落としで,ひっかかった受験生がいるのではないでしょうか。②は「九ヵ国条約-石井・ランシング協定廃棄」「四カ国条約-日英同盟廃棄」の入れ替えです。④は現代史の内容を入れています。ちなみにバンドン会議(アジア=アフリカ会議)は頻度⑨,平和五原則は頻度⑥ですが,バンドン会議が太平洋戦後だとわかれば誤文と判断できるでしょう。太平洋戦後の国際情勢も丁寧に学習しておく必要があります。

問4.センター定番の「1930年代」という「~年代」形式の出題です。bでは太平洋戦後の経済安定九原則という基本的な語句があるので誤文と判断できるでしょう。dは在華紡の展開した時期が大正末期だという時期の判断をするか,国策会社ではないと判断するかです。ちなみに在華紡は頻度⑨で,欠食児童は頻度⑨,娘の身売りは頻度⑩,国家総動員法は頻度⑪です。価格等統制令,公定価格は頻度⑦ですが,bdの誤文が判断できるはずなので,判断ポイントにはなっていませんし,過去には闇価格や闇取引がセンターでは出題されていることを考えれば,過去問を丁寧にやっていれば問題ないでしょう。

問5.下線部から「日中戦争勃発以後」という時期をみれば,①内村鑑三,③北村透谷が明治時代に出てくる人物だと考えれば,誤文としていいでしょう(もちろん,生きている可能性は否定できませんが…)。②の滝川幸辰は日中戦争前に弾圧されているので,誤文と判断できます。以上のように時期判断で処理できます。ちなみに内村鑑三は頻度⑪,滝川幸辰・北村透谷・津田左右吉は頻度⑩,人民戦線事件は頻度⑨でいずれもセンターでは知っておく必要がある用語といえます。

問6.地図の問題です。東アジアの地図でも,正答率はそれほど高くないのに東南アジアの地図とは…。「世界史的な視野」を問うというセンターの姿勢がでているのでしょう。Xは日中戦争の過程で「国民政府が首都(南京)を移した」のが重慶だとわかれば,bが選べるでしょうか。aは北京ですね。Yが一見難問なのですが,地図上のcdの点の位置からcが仏印(フランス領インドシナ)とわかるでしょうか。それがわかれば,Yの文章「イギリスの植民地であったこの都市」からcではないと判断できます。ちなみにdはシンガポールで,Yはシンガポール華僑虐殺事件(1942)の説明で,頻度は①です(笑)。ちなみに国民政府は頻度⑪,重慶は頻度⑩(教科書の扱いは?),点cにあたる仏印は頻度⑪です。Yは消去法で判断させることを前提とする問題ですね。

問7.戦後の社会運動に関する問題です。聴き慣れない語句がいくつかあったでしょうか。過去の出題(2002年の本試験)からしても,③の内灘事件(頻度⑧)が正文とわかるのがいいのですが,「独立回復後」「石川県」など判断ポイントが多いです。①の誤文は日本労働組合総連合会が1987年に成立したことを知っていればいいのですが,それは無理だと思います。講和論争で分裂したのは日本社会党だというのは知っているでしょうか。②は河合栄次郎(頻度⑦)が日中戦争期に弾圧された人物だと知っていれば誤文と判断できますが,やや細かいですね。ちなみにその他,全面講和の立場をとった東大教授は大内兵衛(頻度⑨),南原繁(頻度②),矢内原忠雄(頻度⑩)ですが,かえって混乱しそうです(笑)。④は安保闘争の中心になったのが安保改定阻止国民会議(頻度⑦)を知っているか,社会民衆党(頻度⑥)が太平洋戦争前の政党であることを知っているか,どちらかでしょうか。太平洋戦前・戦後をまたいでいる問題ですが,ある程度の用語知識が必要なので簡単ではないでしょう。

問8.1990年代のPKO協力法が問われていますが用語頻度⑩です。しかも,オイルショックの背景となる頻度⑪の第4次中東戦争との関係なので,誤文と判断できたでしょうか。他は①MSA協定が頻度⑪,②IMF8条国が頻度⑨,③貿易摩擦が頻度⑦ですが,④の誤文がはっきりしているので,①~③は判断しなくてもよい問題です。PKO協力法は1992年で,宮沢喜一内閣です。細川護煕内閣が成立して55年体制が崩壊したところまで,内閣ごとの重要事項を整理しておけば過去のセンターから見ても大丈夫ではないかと思います。以前,1990年代の問題が出題された時はセンター講評の「高等学校教科担当教員の意見・評価」で批判されていましたが…。

 以上,今年度のセンター日本史B本試験に関する初見のコメントでした。最終的なな難問分析は6月,作成部会の見解についてのコメントは7月ぐらいになると思います。